Updated on 2017-06-22 (木) 00:01:40 (2498d)

金型の高速工程設計支援システムの実証実験

補助事業番号  27-107
補助事業名   平成27年度 金型の高速工程設計支援システムの実証実験 補助事業
補助事業者名  茨城大学 乾 正知

1 研究の概要

 金型製造では,加工手順や工具を決める加工工程設計がボトルネックであり,この作業の自動化が急務となっている.本研究では,既に実現済みの立体モデルの変換,立体形状のオフセット,工具経路の生成,加工シミュレーションを統合し,製品形状と素材形状,そして工具と加工条件を指定すると,加工結果をごく短時間でモデル化し出力するシステムを実現した.さらにこのシステムを,工程設計自動化に関心の深い企業5社へ貸与し実用性の評価を行い,得られた結果に基づいてシステムのさらなる改善を行った.

2 研究の目的と背景

 製造業からサービス業への転換が言われて久しいが,現在でも製造業が我が国の基盤的な産業であることは間違いない.金型は機械製造の基盤的なツールである.自動車価格の4割は金型代と言われており,高精度な金型を安価かつ高速に製造することは,製造業にとって必要不可欠な技術である.金型の多くは各地の中小メーカで製造されており,この分野を強化することは,地域経済の振興や雇用の確保のためにも重要といえる.金型製造では,加工手順や工具を決める加工工程設計が最大のボトルネックであり,この作業の自動化が急務となっている.

 本研究は我々が開発してきた超高速な加工支援ソフトウェア技術を一つにまとめてパッケージ化し,企業でその有効性を実証することを目的としている.具体的には,既に実現済みの,立体モデルの変換,立体形状のオフセット,工具経路の生成,加工シミュレーションを統合し,製品形状と素材形状,そして工具と加工条件を指定すると,加工結果をごく短時間で出力するシステムを開発する.その後,工程設計自動化に関心の深い企業5社程度に上記システムを貸与し実用性の評価を願う.得られた評価結果をまとめシステムのさらなる改善を行う.

3 研究内容

 本研究は2年間にわたって実施した.

(1)工程設計支援技術のパッケージ化(2015年度)

 我々の研究室では,GPUと呼ばれる画像処理用LSIを利用して,様々な図形処理を超高速に行う技術を長く研究してきた.その多くは幾つかのメーカにおいて実務で利用されており,高い評価を受けている.今回はそれらの技術に中で,特に金型の工程設計自動化に有効な,立体モデルの変換,立体形状のオフセット,工具経路の生成,加工シミュレーションを一つにまとめ,製品形状と素材形状,そして工具と加工条件を指定すると,加工結果をごく短時間で出力するシステムを開発した(図1).

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図1 開発したシステムの機能の基本機能

(2)開発したシステムの実務における評価(2016年度)

 上記技術を用いると,金型の工程設計における主要な業務を効率的に進めることができる.またこのようなシステムを複数並列に起動することで,例えば幾つかの工程設計案から最適なものを選ぶような作業を自動化できる.そこでわれわれの研究に以前から興味を持っており,また工程設計自動化に関心の深い企業5社程度に上記システムを貸与し実用性の評価を依頼した.得られた評価結果をまとめシステムをさらに改良した.

4 本研究が実社会にどう活かされるか ー 展望

 現状では,国内の大手精密機器メーカにおいて,平成29年4月から実用展開を開始することになった.また愛知県に本拠を持つアイコクアルファ社では,工程設計ではなく自動車部品の安全性検証において本技術を利用することとなった.さらに静岡県に本拠を持つうノコミュニティ社では,本技術のエンジンを利用してロボットを利用した磨き加工自動化ソフトウェアの開発が始まった.他にも2社ほどから本技術導入の引き合いがあり,現在上述の1)と2)の両面で実用展開中と言える.

 我が国の製造業の特質は,現場の高いモチベーションと技術レベルであることは良く知られている.このことは明らかに日本の強みだが,結果として製造の諸作業が現場任せになっており,設計に問題があってもその検出と解決が製造プロセスの最終段階になってしまうという問題がある.この段階で,現場で解決できない問題に遭遇すると,再度製造上流に立ち戻って再設計する必要があり,時間とコストを消費する大きな手戻りとなってしまう.本研究の成果を用いることで,製造の上流工程で加工工程の徹底した検討が可能となり,手戻り削減を実現できる.結果として日本の製造業の強化に繋がる.今後はこのような製造性評価の観点から研究成果を活かすことを検討している.

5 教歴・研究歴の流れにおける今回研究の位置づけ

 本研究を実施した乾正知は東京大学の修士課程在学中から一貫して,機械製品の製造自動化に関する研究を行ってきた.従来はソフトウェアを中心に研究を行っていたが,茨城大学に職を移してからは,当時グラフィックス処理用に登場したGPU(Graphics Processing Unit)の並列処理機能に着目し,製造支援に関する諸技術を並列処理により高速化するという方針で研究を進めてきた.研究にあたっては,研究室に閉じこもらずに,常に企業へのインタビューを繰り返し,現場において問題を掘り起こし,それをGPUなどの革新的な情報処理技術で解決し,さらに得られた成果を実用化し社会に還元することを重視してきた.今回の工程設計支援システムの開発も,GPU技術の利用や開発したシステムの実用化試験など,これまでの流れに沿った研究といえる.

6 本研究にかかわる知財・発表論文等

 本研究は,実証実験とその後の企業における成果の普及を目的としており,その妨げとなる知的財産の取得は敢えて行わなかった.実証実験の過程で企業から多くの要望が出され,それに応える目的でいくつかの新技術の開発を行った.これらの成果は今後順に論文化する予定である.

7 補助事業に係る成果物

(1)補助事業により作成したもの

(2)(1)以外で当事業において作成したもの

  • 特にない.

8 事業内容についての問い合わせ先

所属機関名茨城大学工学部乾研究室(イヌイケンキュウシツ)
住   所 〒316-8511 茨城県日立市中成沢4-12-1
申 請 者 教授 乾 正知(イヌイ マサトモ)
担当部署知能システム工学科(チノウシステムコウガクカ)
E-mailmasatomo.inui.az@vc.ibaraki.ac.jp
URLhttps://info.ibaraki.ac.jp/Profiles/6/0000552/profile.html